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鵜飼いの鵜の故郷を訪ねて

  • 2 日前
  • 読了時間: 12分

「長良川の鵜飼い」がオフシーズンの冬、主役の鵜たちを捕獲し鵜匠家に供給している「鵜の岬 ウミウ捕獲場」は自由に見学にすることができます。※1 間もなく見学期間が終わってしまう前の2026/3/22に、茨城県日立市十王町伊師に行って参りました。


北から渡って来た鵜たちが食事後 羽を休める岩場
北から渡って来た鵜たちが食事後 羽を休める岩場

鵜飼いの鵜の種類  日本全国の“鵜飼い”で遣われている鵜は、水中で一度に捕獲できる魚量の多さから体格の大きな天然の「ウミウ」のみが用いられていると思われがちですが、かつては、小柄な「カワウ」と混用もされていました。鵜はもともと鵜飼いが行われた日本各地で捕獲されて来ました。長良川の近郊では、愛知県知多半島の美浜町にある「鵜の山」がカワウの一大繁殖地として有名でしたが、カワウが国の天然記念物に指定※2された為、捕獲ができなくなり、ウミウのみに切り替わって参りました。

 ちなみに写真の鵜はウミウの一団ですが、この手前の岩場には「ヒメウ」の一団もいるそうで、一部混ざりはするものの、ほぼ種別に分かれて岩場を陣取って過ごしているそうです。ふと動物園などから「ヒメウ」の生体展示用に捕獲のオーダーが入ったりし、捕獲することはあるのか気になりお尋ねしました。オーダーは未だかつてないそうですが、捕獲した事はあるそうです。

 柴田:「羽も顔も嘴も皆、真っ黒で余りかわいいものではないですよ。」

なるほど、確かにこうして生殖羽で顔が白く色付いた成体や、茶色っぽく口元が黄色い2年生シントリが居る岩場の鮮やかさを見ていると、黒一色のヒメウは異質です。  深山:「それじゃあカラスを捕まえた様な感じですかね?」

 柴田:「そんな感じですね。ウミウの羽は赤くなったり、…。」

 深山:「えっ!赤くなるんですか?」

 柴田:「そうですね。それに深緑が乗ってきたり、色んな色が混じってますからね。」

 深山:「ほぉお。」

改めてウミウの美しさを再評価したくなります。


ウミウの捕獲方法  全国各地の鵜飼い用のウミウはいずれも、茨城県日立市十王町の「鵜の岬」で捕獲されており、現在ここが日本唯一の捕獲地となっています。※3 現地では鳥屋(とや)という丸太の小屋を菰(こも)で覆ったものを断崖絶壁のテラスの僅かなスペースにしつらえ、捕獲を行う技術者は、小屋の中でじっと身を潜めて待機します。そして隙を見計らって菰の隙間から小屋の前の絶壁で羽を休めるウミウの脚に、竹の「カギ棒」を引っ掛け鳥屋の中に引きずりこむという伝統猟法で捕獲しています。  ▶実際の捕獲の様子:https://www.kankou-hitachi.jp/umiu/

(リンク:日立市観光物産協会「ウミウの捕獲伝統技術発信ポータルサイト」より)


 かつては、“鳥もち”を使って捕獲されていましたが、一度羽に付いた鳥もちを落とす際、鵜匠家では赤土を羽に擦り付けて剥しお湯で洗う作業を繰り返すなどの手間が発生し、それを回避するため現在では、「カギ棒」のみとなりました。

見学者通路に設置された説明資料。実際に道具を手にとり触れることができる。
見学者通路に設置された説明資料。実際に道具を手にとり触れることができる。

ウミウは保護鳥  そのウミウ。実は狩猟鳥獣に含まれておらず保護鳥のため、狩猟免許があっても捕獲できない鳥なのです。但し「鵜飼用の鵜の調達」の様な「その他、法で認められた特別な目的」以外に以下の様な場合、特別に許可されています。但しいずれも自治体(県知事)や行政(環境省)に事前申請が必要となります。 ・学術研究 ・有害鳥獣としての捕獲(農林水産業被害など) ・個体数調整


鳥屋の内側の様子
鳥屋の内側の様子

捕獲技術は市の無形民俗文化財

 そして、ここ「鵜の岬 ウミウ捕獲場」でのウミウの捕獲技術は、平成4年(1992年)に日立市の無形民俗文化財に指定され、捕獲者は「ウミウ捕獲技術保持者」として、日立市観光協会職員の形で日本の鵜飼漁という伝統漁法を陰で支えてくださっているのです。今回、このうちのお一人、柴田勝典さんにご案内いただきました。

 柴田さんは、先代の大高敦弘さん、故 根本好勝さんのお二人から薫陶を受けられ、捕獲技術習得者として平成28年(2016年)~令和2年(2020年)までの5年間、研鑽を積まれ「ウミウ捕獲技術習得者」を経て「ウミウ捕獲技術保持者」になられました。現在は、後進の篠木 拓さん(ウミウ捕獲技術習得者3年)と、見習いの方1名にその捕獲技術を継承されています。


鳥屋の天窓から渡来するウミウがとまる断崖絶壁を臨む
鳥屋の天窓から渡来するウミウがとまる断崖絶壁を臨む

捕獲の難しさ

柴田さんに、ウミウの捕獲で一番難しく感じるのはどんな時か伺ってみました。  柴田:「やはり、波の音ですね。今日みたいに風が吹いて波が立っている時は、音がかき消されますけど、凪の時なんかは、海が静かになっているので、ちょっとしたコチラの気配が向こうに伝わってしまうんですよね。」

 深山:「やはり、鵜の向きとか関係あるのでしょうか?以前、根本さんに、壁側を向いている時の方が捕獲の打率は高いと教えていただいたのですが…。」

 柴田:「そうですね。風が吹いている時、鵜は海の方を向きます。風に向かう形ですね。逆に凪で風が無い時は、鳥屋側を向いているんです。」

 深山:「えっ?そうすると、こちらの気配が伝わりやすい凪の時、鵜はこちら側を向いているってことなんですか!それは難しいですね。よっぽど気配を消さないと。」

 柴田:「そうなんです。それで、我々も目立たない様に、黒っぽい服を着たりしています。」

 深山:「それで、上下ネイビーの服装なんですね。鵜匠さんの鵜飼装束も濃紺ですが、それに通ずるものがありますね。今、気が付いたのですが、この枯れ枝を結びつけているのも、岩場からこちらが見えない様に付けたカモフラージュですね?」

 柴田:「そうです。自分達で切って付けました。」


竹垣に大枝を結び付け、岩礁で休む鵜たちからの目隠しにする
竹垣に大枝を結び付け、岩礁で休む鵜たちからの目隠しにする

鵜の飛来  深山:「あと、これも根本さんに伺った話で恐縮ですが、そういったテクニカルな部分の難しさよりも、『待つ』という事。納期が迫っているのに、一行に鵜が飛来しないという焦りと鵜匠さんとの約束を果たすんだというプレッシャーに耐えること。こういったメンタルな部分が一番難しいともおっしゃっていましたが、柴田さんはいかがでしょうか?」

 柴田:「もちろん、そう言ったプレッシャーはありますね。ええ。ちょうど今、あそこに見えている様な大きな個体が先に飛来するんです。捕獲の対象となる2年生のは、その後に来ますから。」

 深山:「あぁ、では、大きいのきたぞ。もうすぐ若いのも来るな!とか、飛来するタイミングがわかるわけですね。」

 柴田:「そうです。そういうのでも判断します。でもいつもは、こんなに数は居ないですよ。」

 深山:「少ないんですか。いつもはもっと。」

 柴田:「えぇ。もっと少ないですね。珍しいですね。」

 深山:「ところで、あの、あー違うか。多すぎるもんな。いや、もしかして、あの岩場だけ白いのって全部、鵜の糞ですか?」

 柴田:「そうです。鵜の糞でできてます。皆、海で食事して、戻ってきて、あそこに止まってするものですから、あんな風になりますね。」


岩場のウミウたちの様子を解説する柴田さん
岩場のウミウたちの様子を解説する柴田さん

 深山:「ここは絶景ポイントですけど、こちらから見えるってことは、向こうからも見えているわけですね。じゃあ、話したりもできませんね。」

 柴田:「まぁ、波が立っているときは、話せますけど、凪の時は声を潜めますね。」


作業小屋

 鵜篭を編んだりする作業小屋も見学させて頂きました。

 深山:「この小屋の前でずっと待機されるのですね?」

 柴田:「そうです。ここから見ていますと、飛来した鵜が、オトリの鵜に寄って、すっと降り立ってくる様子が見られますから、そうすると、そこの階段下の穴を通って鳥屋に入ります。」


道具を入れたり鵜篭を編む作業場 双眼鏡なども置いてある
道具を入れたり鵜篭を編む作業場 双眼鏡なども置いてある

 ここウミウ捕獲場では、オトリの鵜を予め捕獲場の岩に繋いでおくことにより、羽休めに飛来した鵜が、先着の鵜の姿を見て警戒心を持たずに安心して降り立てる環境を作り、捕獲の効率性を高めているのです。


作業小屋の前にある階段を降りると手堀りのトンネルが現れ、鳥屋の一番奥に通じている
作業小屋の前にある階段を降りると手堀りのトンネルが現れ、鳥屋の一番奥に通じている

捕獲直後の鵜の「はしかけ」箱入れ作業場

 「獲った鵜はもう直ぐに、ここで箱に入れちゃいます。そして獣医さんに病気とか持っていないか検疫してから、鵜匠さんとこに出します。」と柴田さんに案内頂いたプレハブ小屋は、なんと奥の壁は岸壁の地層がむき出しでした。改めて何も足掛かりがない所に手堀りで平地に切り開いたスーペースであることを実感します。篠竹が目隠しになっていますが、写真の柴田さんの1m直ぐ後ろは、目もくらむ様なそそり立った断崖絶壁なのです。


捕獲した鵜の嘴に「はしかけ」し、獣医さんの検疫まで保持する小屋
捕獲した鵜の嘴に「はしかけ」し、獣医さんの検疫まで保持する小屋
開墾したショベルの跡が生々しい
開墾したショベルの跡が生々しい

そんな小屋の中を見回すと、クリップボードに何か日付が書かれて消し込み線が引かれているのが目に留まります。

 深山:「柴田さん、これは…いったい?…」

 柴田:「それは、オトリの鵜を入れ替えた時の日付ですね。」

 深山:「なるほど、2週間、いや1週間から10日間くらいの間隔なんですね。」

 柴田:「そうです。大体10日前後で入れ替えますね。令和7年秋の捕獲の時の記録です。」※4



ウミウ捕獲技術の継承

 一通りの案内を頂き、戻る際、今日どうしても聞きたかった事。「どうしてこの職業を選ばれたのか」をお尋ねしました。かいつまんでお伝えすると、柴田さんはもともと、ここが地元で、ここから5分くらいのところに住んで農業をやりながら別の仕事をされていたとのこと。2015年に、継承者の募集に応じ、その時に前の会社は退職されたそうです。

 深山:「じゃ、柴田さんは、もともと“二足の草鞋”を履いておられたんですね?」

 柴田:「そうなんです。もともと“二足の草鞋”だったんですよ。」

 深山:「それは大変でしたね。」

 柴田:「えぇ、まぁ農業の方は農閑期もありますし、捕獲猟の無い時は今日みたいに、案内をさせて貰っていますが。ここの仕事も期間が決まってますんで…。」  実はここに来るまで1300余年続く鵜飼の伝統を守るために、ウミウ捕獲だけを生業にされてご苦労をされているのだろうかと心配していたのですが、副業も続けておられるとのことで安堵いたしました。柴田さんの柔らかい対応と同様に、柔軟にお仕事を組み合わせておられる事が僭越ながら嬉しかったのです。これが、もし、ひたすらに鵜を待つだけの職業のみであった場合、後継者の発掘がより困難になることは想像に難くなかったからです。

 柴田:「あと、見習いが一人いるんです。ホントは3人が丁度良いんです。」

嬉しさと期待が入り混じった表情で柴田さんが話してくださいました。


 その他にも「関係者以外立入禁止」エリアは市の保全対象から外れウミウ捕獲技術者が整備されていること、岸壁を覆っている松がマツクイムシの影響だけではなく、熱波で枯れ始めていること、鵜匠家の中には毎年近接する「国民宿舎」に投宿されてウミウ捕獲技術者の方々に労いの言葉を掛けておられる鵜匠さんが居ること、ウミウ捕獲の伝承がキチンと伝わる様にマスコミはちょくちょく来るワイドショーの取材は断っておりニュースや学術的な取材にだけ対応される様、心がけている事、等々ゲンバならではのお話を色々聞かせてくださいました。

 そうこうしている内に、再び見学者通路の入口に戻ってきました。篠木さんが、見学者の方に順路を案内されています。丁度ワンちゃんを抱いたご婦人が、ペットの持ち込みはご遠慮させて頂いておりますと伝えられていたところでした。真に適切な案内です。飼い主さんの胸元から駆け下りたとたん、そこに崖があるわけですから、勢い余って…と想像するだけでも恐ろしいですね。


見学者通路にある案内板
見学者通路にある案内板

 お二人に、特別に丁寧な案内をしてくださったお礼を丁寧に伝え、改めてお二人の写真を撮らせて頂きたいと伝えたところ、柴田さんが「こんな感じですかね?(笑)」と、すかさず、篠木さんの肩をガシッと掴みました。そのご様子が何だか、愛弟子が可愛くてしょうがないというか、とても良い師弟関係を表しており、「鵜飼いの伝統は俺たちが支えるぜ!任せろ!」と力強く言ってくださっている様でもあり、とても素敵でした。


左 篠木拓さん(ウミウ捕獲技術習得者)  右 柴田勝典さん(ウミウ捕獲技術保持者)
左 篠木拓さん(ウミウ捕獲技術習得者)  右 柴田勝典さん(ウミウ捕獲技術保持者)

この写真の撮影後、筆者も入れた3人でセルフィ―を撮りました。

 柴田さんからは「今度、応援団の方と是非いらしてください!」

 篠木さんからは「お互い、鵜飼いを盛り上げていきましょう!」

というホントに嬉しいエールを頂き、大いに賛同し、お二人が事業を継承して下さっている事に深く感謝の意を表しながら、いとまの挨拶をいたしました。

 順路の木立の中で姿が見えなくなるまで、お二人でずっと見送ってくださったのには正直感動いたしました。柴田さん、篠木さん、今日お会いできてホントに良かったです。そして今日お会いできなかった見習いの方も含め、お三方に対し長良川鵜飼文化応援団も鵜飼捕獲がつつがなく、ご安全に遂行できることを祈念しております。ありがとうございます。

お土産

帰りがけに「茨城県立国民宿舎 鵜の岬」でお土産探しをしました。アレ、どこかで見た様な…。私は、鵜の岬マスコットキャラクターの「うーちゃん」が可愛い「鵜の岬ペーパークラフト」とサブレを求めました。

国民宿舎のフロントにあるお土産物売り場の鵜関連ディスプレイ
国民宿舎のフロントにあるお土産物売り場の鵜関連ディスプレイ

鵜の岬ペーパークラフト 台の後には「来てくれてありがとう」の文字が
鵜の岬ペーパークラフト 台の後には「来てくれてありがとう」の文字が

距離は遠くても鵜の岬と長良川の鵜飼いに関わる人達の気持ちは繋がっている…そんなことをしみじみと実感させてくれる今回の訪問となりました。もし、鵜飼いに興味を持たれた方、もっと深く鵜飼いの事が知りたいと思われた方は是非一度、関東近郊の旅程の際には足を延ばされてはいかがでしょうか?1960年代のSFのタイムトンネルの様な案内通路が、奥からドドーンと波の砕ける音を響かせながら皆さんが来るのをお待ちしております。


鳥屋までの誘導通路 各地の鵜飼い案内板や捕獲道具の展示もある
鳥屋までの誘導通路 各地の鵜飼い案内板や捕獲道具の展示もある

                                     記:深山 ※1:見学期間は1~3月と7~9月の9:30~14:00まで。集団で訪問する場合は事前の予約が必要。 ※2:昭和9年(1934年)に国が天然記念物に指定しました。カワウという鳥の生体そのものではなく、繁殖地(コロニー)を保護するための地域指定で愛知県美浜町の「鵜の山カワウ集団繁殖地」の「鵜の池」周辺1.17haが指定されました。

※3:京都の「宇治川の鵜飼」では2014年6月29日に初めて人工孵化に成功したウミウのヒナ鳥たちが「ウッティー」と命名され、放ち鵜飼を目指して、「鵜の岬」産の鵜と共に鵜飼い漁に出ていますので、京都宇治は厳密には「鵜の岬」産のウミウだけではありません。

※4:オトリの鵜は、「鵜の岬」の近傍にある「鵜のパラダイス観覧飼育舎」と呼ばれる12角形の大型ケージの中に、5羽程度の鵜が飼育されており、入れ替えながら飼育されています。


 
 
 

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